書いた文章をウェブ上で公開するようになって、22年が経った。この日には、毎年、何か記念になる文章を書くようにしている。
何をやっても三日坊主の私がこれだけは続けてきた。中断した時期もあったけれど、ここ数年は毎日書いている。
これだけ長く続けてこられたのは、シオランが言うように、絶望の淵で最後の助けになることは「書くこと」だからだろう。
今年は、自分史の一つの切り口として、読書遍歴を書いておこうと思う。
私は本は好きではあっても多読ではない。読書家とも言い難い。いつも本を手放せないというほどの本好きでもない。それでも、ここに挙げる本は、これまでに読んできた本の一部であってすべてではない。
未就学時代(母に読み聞かせてもらった本)
バートン『ちいさいおうち』、渡辺茂男『しょうぼうじどうしゃじぷた』、レイ『ひとまねこざる』、中川李枝子『いやいやえん』、寺村輝夫『おしゃべりなたまごやき』
小学生時代
ロフティング『ドリトル先生航海記』、松田道雄『恋愛なんかやめておけ』、吉野源三郎『君たちはどう生きるか』
中学高校時代
島崎藤村『破戒』、井上ひさし『青葉繁れる』、夏目漱石『こころ』、福永武彦『草の花』、太宰治『人間失格』、武者小路実篤『友情』、住井すゑ『箸のない川』、堀辰雄『風立ちぬ』、新田次郎『孤高の人』、エンデ『モモ』、永山則夫『無知の知』、寺山修司『青春作品集』
学生時代
馬場伸也『アイデンティティの国際政治学』、丸山圭三郎『文化のフェティシズム』、岸田秀『ものぐさ精神分析』、藤原保信『自由主義の再検討』、丸山眞男『現代政治の思想と行動』、T・トドロフ『はかない幸福』、千葉眞『現代プロテスタンティズムの政治思想』
20代
大藪春彦『野獣死すべし』、トム・クランシー『愛国者のゲーム』、春江一也『プラハの春』、胡桃沢耕史『翔んでる警視』、ナンシー関『テレビ消灯時間』
30代前半(2002年から2004年)
鷲田清一、竹内洋、小林秀雄、森有正、辻邦生、荒川洋治、斎藤美奈子
30代後半(2005年から2008年)
40代(2009年以降)
40代後半以降は、それまでに読んだ人の新作や関連書籍を読んでいる。こうして列挙してみると専門書とエッセイが多く小説は少ない。
小学生時代、『ドリトル先生』シリーズを除き物語の本はほとんど読まなかった。それでも本は嫌いではなかった。低学年の頃は、近所にあった「金曜文庫」という名前の自宅を開放した私設図書室に通っていた。この頃、よく読んでいたのは、野球の記録やルールの本や推理クイズの本。そこで紹介されていた子ども向けの推理小説も手には取らなかった。
高学年になると区立図書館まで自転車をこいだ。『ドリトル先生』を借りたのもここ。ほかには、『世界の七不思議』や『20世紀の大発明』のような図鑑のような本ばかり読んでいた。自分の本棚にはケイブンシャの『大百科』シリーズが並んでいた。
小学生も終わりが近づき、思春期と呼ばれる年頃になり、『恋愛なんかやめておけ』や『君たちはどう生きるか』を図書館で借りて読むようになった。この頃から小説よりエッセイのような文章を好んでいた。
中高時代はいわゆる文豪の作品を濫読した。きっかけが母の勧めだったことは『破戒』の感想に書いた。そこから日本文学の有名な作品を立て続けに読んだ。
学生時代はニューアカの時代だった。でも、浅田彰や中沢新一は読まなかった。代わりに読んでいたのが、丸山圭三郎、岸田秀、それから今村仁司。丸山は『ソシュールの思想』や『生命と過剰』なども読んだし、講演会を聴きに行ったりもした。
大学院をドロップアウトして再就職をしてからは、研究者の真似ごとをしていた時代の反動から娯楽小説ばかり読んでいた。なかでも胡桃沢耕史は直木賞を受賞した『黒パン俘虜記』のほか『翔んでる警視』シリーズはすべて読んだ。私の筆名は彼の名前にあやかっている。
2002年秋、小林秀雄との出会いが大きな転機となった。34歳のとき。渋谷の松濤美術館で小林秀雄が所蔵していた美術品の展覧会を見た。それをきっかけにちょうど刊行されていた『小林秀雄全集』を手に取った。ここから本格的に『烏兎の庭』は始まった。
松濤美術館へ行ったのは、日経新聞の記事がきっかけだった。一つの新聞記事から人生が変わることもある。私はそれを身をもって体験した。
振り返ると、海外文学にほとんど触れていないことがわかる。記憶にあるのは中学時代に読んだ『若きウェルテルの悩み』『狭き門』『異邦人』くらい。いまでも、海外の小説は自分から手に取ることはまずない。
海外のエッセイは読んでみたい。でも、なかなかいい作品にめぐり逢わない。
さくいん:シオラン、バートン、渡辺茂男、レイ、寺村輝夫、島崎藤村、井上ひさし、夏目漱石、福永武彦、太宰治、住井すゑ、新田次郎、寺山修司、丸山圭三郎、丸山眞男、トドロフ、千葉眞、大藪春彦、胡桃沢耕史、鷲田清一、竹内洋、小林秀雄、森有正、辻邦生、荒川洋治、斎藤美奈子、西田幾多郎、中井久夫、石原吉郎、島薗進、佐藤研、こうの史代、平山正実、橘木俊詔、橋本健二、田中俊之、ダンテ、日経新聞